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Dr.毛利の矯正のお話

つくば毛利矯正歯科の院長が、矯正治療にまつわるさまざまな話題を、コラム形式でご紹介します。

第1話 矯正治療の必要度の指標

わが国では、顔面の重度の先天異常(口蓋裂など)や顎変形症以外の矯正治療には、健康保険は適用されません。しかし、ヨーロッパ諸国の中には、成人前の矯正治療に保険が適用される国もあります。もちろん、不正咬合の重症度が一定のレベルを超えていなければ、保険は適用されません。そこで、不正咬合のレベルを測定するためのインデックスが、各国で使われています。たとえば、最初にインデックスが作られたスウェーデンでは、

の2つのインデックスで、保険適用の可否が判断されます。

現在、世界でもっとも普及しているのは、イギリスで考案されたIOTN(矯正治療必要度インデックス)です。IOTNは、以下の2つのインデックスから構成されています。

1 デンタルヘルスコンポーネント(DHC)

歯の健康上の理由による矯正必要度。歯科医の視点から見た客観的判断基準。

IOTN DHC簡略版
歯科医による客観的判断基準(DHC)

2 エステティクコンポーネント(AC)

一般の人の審美感覚で見て、違和感の強い程度。いわば社会的な見地からの矯正治療必要度というべきもの。

このように、IOTNを用いることで、医学的な見地のみならず、いわゆる外観の問題についても、客観的な尺度による治療必要度(および保険適用の可否)の判定が可能となっています。


IOTN美容指標(AC)で用いられる標準写真です。写真8〜10が矯正治療の必要な歯並びとされています。

残念ながら、わが国では一般的な矯正治療は保険適応外ですので、あまり厳密にこのような重症度が判定されることは少ないようです。(私[毛利]が新潟大学の教員時代、全国で疫学調査を行った結果では、34.1%の学童について矯正治療が必要と判定されており、イギリスなどに近い数値でした※1ある歯医者さんでは、治療は必要ないといわれたのに、しばらくして他の歯医者さんに行ったら、こんな状態でほったらかしておいたのと叱られたりした、というような話も、何度か聞いたことがあります。このような現状を考えるなら、歯科医間のコミュニケーションや、患者さんへのインフォメーションという意味で、なんらかの指標を使うことは有意義だと思います。

つくば毛利矯正歯科では、IOTNのDHCとAC、およびスウェーデンの基準による主観的矯正必要度の3つを診断書に記載して、患者さんにお渡しするようにしています。

※1 渡辺 厚、毛利 環 他:日本におけるIOTNを用いた不正咬合の疫学調査:日本矯正歯科学会雑誌68巻(3)142-154、2009.

第2話 矯正治療中の虫歯予防

矯正治療中の虫歯予防

矯正の器具をつけると、器具の周囲に虫歯の原因となる歯垢(プラーク:歯のまわりにつくばい菌の塊)が増加することは事実です。しかし、現在までの科学的な研究報告の結果では、矯正治療をした場合に、しない場合に比べて虫歯が増えるというデータは示されていません。矯正治療中は、月に1回来院して、歯科医が歯の健康状態をチェックし、歯磨きの方法をアドバイスしたりしていますので、そのことがプラスの効果をあらわしているのかもしれません。しかし、プラークが増加するということは、虫歯のリスクが増えると考えるべきですので、矯正治療中には何らかの配慮(ケアー)が必要になります。

つくば毛利矯正歯科では、歯科衛生士スタッフを中心に、お口の衛生指導に、特に力を入れています。必要な場合には、矯正治療開始前に虫歯などの予防指導や治療を行い、また、矯正器具装着後には、何度かお口のプラークの状態を染め出しして、わかるようにして衛生指導を行います。加えて、つくば毛利矯正歯科では、フッ素(フッ化物)の応用を中心とした、いくつかの矯正治療中の虫歯予防のプログラムを用意しています。

確実な虫歯予防法としては、フッ素の応用に勝るものはありません。たとえばWHOでは、フッ素入りの歯磨き剤の使用を推奨しています。わが国では、諸外国に比べて歯磨き剤のフッ素濃度が低いのですが(最大で1000ppmと決められています。ちなみに諸外国では1500ppm)、海外のフッ素入りの歯磨き剤を使用した場合には、さらに5〜7%虫歯が減少する、というデータがあります。しかし、国産のものでも十分に効果は期待できますので、ぜひフッ素入りの歯磨き剤をおすすめしたいところです。

また、矯正治療中は、虫歯のリスクが増加することを考えるなら、フッ素を配合した洗口剤を使ったうがい(フッ素洗口)もおすすめいたします。世界中の医学分野の正確な情報を集約した、イギリスのコクラン共同計画による系統的レビューでも、矯正治療中のフッ素洗口の虫歯予防効果が確認されています。

このように、フッ素の使用は非常に効果的なのですが、歯磨きを中心としたお口の衛生管理もまた大切です。歯磨きは、歯肉炎や歯周炎の予防にも効果的だからです。その点は忘れないでください。

私[毛利]がスウェーデンに留学していた折、知人の小児歯科医、スバンテ・テットマン先生に「小児のう触予防―何をどのようにすべきか」※2という論文を、日本の雑誌向けに書いてもらったことがありました。当時の日本では、これほど体系的な虫歯予防が確立していませんでしたので、大変勉強になった記憶があります。
私[毛利]と新潟大学小児歯科の野田教授とで翻訳し、解説を追加したものがありますので、ご希望の患者さんにはコピーを差し上げております。

※2 Twetman, S 小児のう触予防―何をどのようにすべきか/論文背景と解説(毛利環、野田忠)  ザ・クインテッセンス20(6)1143-1149,2001

第3話 「顎関節症」と矯正治療のかかわりについて

かつては、いわゆる「顎関節症」は、噛み合わせとの関係が深いと考えられおり、多くの研究が行われてきました。私(毛利)も矯正治療を行うことによって、顎関節症の症状を改善させる可能性があると考えていた時期があります。しかし現在では、それは正しいとは言えません。

私[毛利]がスウェーデンに留学していた当時、矯正科の同僚ト−レ・ヘンリクソン先生が、顎関節症と矯正治療の関連について研究していました。彼は、矯正を行うグループと行わないグループを厳密にわけて、2年―10年間定期的に顎関節症の症状を調査・研究したのです※3。結果は、矯正したグループとしなかったグループの間に大きな差はなく、他の要因による変動が大きい、というものでした。

「矯正治療を行うことで、顎関節症状を改善することも、悪化させることもない。」というのが、最近の系統的研究の結論です。
いまでは、顎関節症はひとつの原因ではなく、多くの要因によることが明らかになっています。咬合の因子の関与は低く、むしろ、顎関節症状自体が咬合に影響を与えることなどがわかってきました。現在、顎関節症の治療を行っている大学病院(近いところでは、筑波大附属病院顎口腔外科や東京医科歯科大学歯学部顎関節治療部など)などでは、顎関節症の治療として、咬合治療(噛み合わせを変化させる治療)を行っているところはないと思います。もちろん、歯がうまく咬み合わないので咬合治療を行う、ということはありますが、顎関節症の治療として咬合治療を行うことは、もはや適切とはいえないようです。

ただし、顎関節症が原因でうまく咬めない場合や、スプリント治療によって咬めなくなった患者さんに、咬合治療として矯正を行うことは、他の方法と比べて歯を削ったりする必要がない分、有効な治療法かもしれません。

顎関節症、開咬:スプリント治療後に噛めない


私[毛利]としては、顎関節症はできる限り専門の先生と協力して治療にあたるべきであろう、と考えています。


院長が留学していたスウェーデン・ルンド大学歯学部の中庭にある、ウルフ・ポッセルト博士(1914-1966)のモニュメント。ポッセルト博士は科学的咬合学(かみ合わせのの研究)の父と呼ばれた世界的な研究者で、顎[あご]の動きを精密に測定したパイオニアです。彼が発見した顎[あご]の運動軌跡はバナナのような形をしていたので、発見者の名前をとって、ポッセルト・バナナ、またはスウェディシュ(スウェーデンの)・バナナと呼ばれ、日本の歯科大学でも必ず教えられています。写真のモニュメントは、このポッセルト・バナナをかたどったものです。

※3 Henrikson T 咬合ならびに矯正治療と関連したTMD症候について /論文背景と解説(毛利環、木野孔司)
    ザ・クインテッセンス20(4)741-748,2001.
※4 加治彰彦、毛利環 矯正治療と顎関節症のかかわりについての検証―EBMの見地から ザ・クインテッセンス28(9)1892-1902,2009.

第4話 デーモンシステム(セルフライゲーションブラケットについて)

デーモンシステム、という矯正装置(器具)をご存知ですか?
つくば毛利矯正歯科を開院したころ、このデーモンシステム(デーモンブラケット)での治療を希望する方が、たて続けにいらしたことがありました。特定メーカーの商品名であるはずの『デーモン』を、なぜ一般の方がご存じなのだろう、と驚いたものです。お話をうかがってみると、どなたも「ネット上でたくさん紹介されていて、よさそうだから」とおっしゃるのですが、どのような点でよいと思ったかについては、明確なご意見をお持ちでない方がほとんどのようでした。

多くのホームページで「最新の治療法」と紹介されているデーモンシステム。特別なブラケット(矯正用のワイヤーを歯に固定するための器具)を使用し、弱い力で歯を移動させることができるため

などのメリットがあるとされています。このようなインターネット上の情報だけを見る限り、一般の方がぜひデーモンで、と考えるのは無理もないことです。しかし(デーモンに限らず)何か特定の器具を使っただけで、飛躍的に矯正治療の効果が高まるとは考えにくい、というのが私[毛利]の意見です。

デーモンシステムは、私たち医師が『セルフライゲーションブラケット』と呼んでいる器具の一種です。
一般的なブラケットの場合、ワイヤーをブラケットに通した後、金属線や弾性素材で固定する(この作業を「結さつ」といいます)必要があります。セルフライゲーションブラケットは、ワイヤーを固定するための金具が本体に組み込まれているため、結さつを行う必要がないのが大きな特徴です。この種のブラケットは、決して新しいものではありません。

すでに1980年代、国内の一部の大学では、矯正科の専門教育に用いる主要なブラケットとして使われたことがあるそうですし、1990年代には、トロント大学(カナダ)より『スピードシステム』というセルフライゲーションブラケットが紹介され、一時期多くの医師が使用していました。私[毛利]も、デーモンのほか何種類かのセルフライゲーションブラケットを、治療に用いたことがあります。

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従来の結さつブラケット(左2つ)とセルフライゲーションブラケット(右2つ:デーモンは右から2番目)

さて、セルフライゲーションブラケットには、次のような利点があります。

1  結さつが不要なので、1回1回の治療時間を短縮できる
2  通常の結さつのように強く締めることがなく、ある程度の「遊び」があるので、ワイヤーとブラケットの摩擦が比較的少ない
(そのため、治療初期の歯の移動は早いと予想される)

おそらくこれらのことが、デーモンシステムなどを紹介する際に「治療が短く済み、痛みが少ない」といわれる理由と想像されます。しかし、1)については、一般的なブラケットであっても、結さつの方法・強さを調整することなどで同様の効果を得られますから、単純にセルフライゲーションブラケットのほうが優れている、と断定することはできません。

私[毛利]が知る限り、セルフライゲーションブラケットのほうが治療期間が短い、と断定するのに十分なエビデンス(研究に基づくデータの裏付け)は、現在[2010年1月]のところ出ていなかったと思います)また、セルフライゲーションブラケットを用いた治療では、必要に応じて結さつの方法・強さを変えて微調整を行うことができないため、細かな歯の位置を決めるのに時間がかかるケースも考えられます。加えて、治療に硬いワイヤーを用いた場合、セルフライゲーションブラケットでは、ワイヤーを固定するのが難しい場合もあります。

このように、セルフライゲーションブラケットでできることは、従来のブラケットでも十分に可能ですし、ケースによっては、このブラケットの長所とされている点が、逆に短所となることもあるのです。セルフライゲーションブラケットは高価(おおむね通常の3倍)ですから、場合によっては、セルフライゲーションブラケットを用いることで、治療のコストパフォーマンスが下がってしまう可能性も否定できません。

数年前、ベルゲン大学とオスロ大学(ともにノルウェー)を訪問した際に、セルフライゲーションブラケットの導入について議論したことがあります。両大学とも、将来的にはセルフライゲーションブラケットの使用を考えているようでしたが、採用にあたっては、従来どおりの結さつも必要に応じて行えるタイプであることが必須条件、ということでした。私も、まったくの同意見です。

ところで、つくば毛利矯正歯科では、デーモンシステムでの治療をご希望の方には、とりあえず可能ですよ、とお答えしています。私[毛利]は、アメリカのデーモン先生(デーモンシステムの開発者)のコースを受講して、直接議論したこともありますし、また、大学病院で治療に使用した経験もあります。デーモンブラケット自体もシンプルな構造で、この種のブラケットのなかでは比較的好きなほうです。しかし、どんなブラケットを使う場合でも、医師がその長所・短所をしっかり押さえた上で、正しい判断・適切な調整を行うことが重要、というのが、私[毛利]の考えです。

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つくば毛利矯正歯科

茨城県つくば市春日2-2-7

 

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